ある債務者の手記

自殺にまで追い詰められた債務者が、債務整理の果てに手に入れたもの

破滅に至る病②

 

 

持って来たロープを取っ手にかける。

首を吊るのに高さは必要ない。

少し前、芸能人の自殺でその方法が話題になった。

人はドアノブで死ねる。

おしりが浮くだけの高さがあれば 頸動脈を圧迫し、意識を失うことは簡単だ。

後は窒息死するのを待つだけ。

ものの数十秒。

今までの苦しみと、これからの苦しみを考えたら 数十秒は、長くない。

ロープの輪に首を通す。

ビニールのトゲが、チクチクした。工事現場にある黄色いやつだ。

ああ、まだ生きてるな。などとくだらない感傷に浸る。

このチクチクを感じなくなったら やっとゆっくり眠れるのだ。

嬉しい。 不思議と肯定的な考えが浮かんでくる。

何かが後押ししてくれている? 神か? 神が、そうしろと言っているのか。

ありがたい。 私は祝福されている。 迎え入れてもらえるのだろう。

本当にありがたい。 壁にもたれかかり、空気椅子のような体勢をとる。

そして脚の力を徐々に抜いていく。 滑らせてはいけない。

一気に体重をかけると、取っ手が折れてしまうからだ。

ゆっくりと、確実に、終わらせていく。

最後は息を吐く。吐きながら、残りの体重をロープに預ける。

頸動脈が締まっていれば、もう空気を吸うことはできない。

目が見開かれ、充血する。

目が熱い。視界がぼやける。

そして、涙が溢れる。

溢れる。 流れ落ち。 頬を伝う。

喘ごうにも、声は出ない。

空気がない。 命が終わろうとしていた。

こぼれ落ちる。

命がこぼれ落ちる。

くだらない、意味のない ちっぽけな命が。

バカらしい。 なんでこんなことになった。

どこで道を誤った。

いや、結局、ここが終着点。

どうあがいても、ここへ辿り着く運命だったのだ。

気づかなかった。 ここへ向かって、走っていたのだ。

 

いやはやどうも お疲れ様でした。

 

 

ありがとうの気持ち

ありがとうございました。

突如生まれた、感謝の気持ち。

しかし、反論する。ふざけるな。

何をいまさら。 誰に何を感謝しろと?・・・声が聞こえた。

すべてさ。 すべて感謝するんだよ。 生きて、まだまだ感謝するんだ。 感謝は生きている証。 生きたいと思う証。
 

聞き入れる。 同意はできない。

まだわからないから。

でも、生きたい。 生きたいよ。 バカみたいに。

子どもみたいに生きることに全力を尽くしたい。

草木や昆虫みたいに ただただ生きたい。

命を終わらせたくない。

たったひとつの命なんだよ。

 

命の意味なんて わからなくて良い。

急がなくて良い。 それでも生きて、生きて答えを見つけなければならない。

涙が溢れた。先ほどとは違う涙だった。

悲しいからじゃない、悔しいからじゃない。

感動しているのだ。

自分にもまだそんな感情が残っていたのだ。

生きてる。

人間だ。

生命だ。

当たり前のこと。 すっかり忘れていた。

当たり前のこと。

先の事なんてわからない。

未来は 悲しみに満ちているかもしれない。

でも、今は生きたい。

今あるのは今だけ。 過去も未来もない。

今は今しかない。 今、私は生きたいと、そう願っている。

必死にもがいた。

この方法は、助かろうと思えば簡単に助かる。

手をつくか、手でロープを握ってしまえばいいのだ。

もちろん、猶予は失神するまでの数十秒しかない。

数十秒の命。 死んでいたかもしれない。

それでも、もがいた。

ギャンブルだ。 生きるということは、しょせんギャンブルだ。 間違いじゃなかった。 ただ、慎重さに欠けていただけ。 まだやり直せる。やり返せる。

 

 

もし死んでいたら、この文章は書かれていない。

私は生きている。

 

もし破滅していたら、この文章は書かれていない。

拾った命。

救われた命をどう使ったか。

つまり、私は選択したのだ。

選択するしかなった。

でも、そこまで追い詰められて、ようやく決断でる。

最後の選択。

 

いずれにせよ、選ばなければならない。

また、後悔するかもしれない。 それでも続ける。

結局、人生そのものがギャンブルなのだから。

 

やり直すか。

やり返すか。

 

パチンコの苦しい借金から人生をやり直す

                    より